文字起こしは文字入力というより場面入力

医薬・看護などの医療現場、また学校教育・政治経済・環境整備をはじめ、非常に多岐にわたる分野において、文字起こしは需要があります。人が語る場面を文字に再現する文字起こしという作業は、その話す場面から分野の研鑽を深め、さらにそれを人に伝播するという、この一連の記録作業の一部にすぎません。

文字起こしとは何かという問いに「文字入力」と言われれば、あたらずといえども遠からずと答えるでしょう。私は「場面入力」という言葉のイメージが合うと思っています。文字起こしは、紙に綴られた文字を写して入力する「文字入力」とは似て非なるものです。文字入力という作業では入力速度が大きな武器になります。文字起こしでも、ある程度の入力速度は必要ですが、速度だけでは文字起こしの商品にはなり得ません。人の話を聞いて入力する文字起こしに大切なのは、まず人の話や場面を正しく理解すること。そして会話のやり取りは、いつもキャッチボールであること。この2点がとても大事です。

ほとんどの場合、キータッチにばかり追われて内容を理解していないときに聞き間違いが起こります。話の内容を理解できていれば、言葉のつながりがおかしなことに気づいて、その聞き間違いを正すことができます。また、聞き取れず埋没していた言葉も、話の流れから推測して聞き直すことで、その言葉をすくい上げることもできます。思い込みから聞き取れない埋没した言葉たちがよみがえります。そのためには専門的な用語の知識も必要となり、文字起こし劇場の場面を読み取ることがキーポイントです。

「二兎追う者は一兎をも得ず」ということわざがありますが、入力、そして話を聞くという作業の二兎を追ってこそ初めて、文字起こし原稿として完成します。これを言い換えれば、「二兎追わない者は一話も得ず」といった感じでしょうか。指で文字を追うだけではなく、耳で場面を追うという「場面入力」。これが文字起こしの作業です。

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